A院長は、無期雇用が一般企業での雇用形態であると考え、自己の診療所で有期雇用以外の雇用形態を検討すらしたことがなかった。
ところが、ある日、従業員の1名から、無期労働契約転換の申込をしたいとの相談を受けた。A院長は突然の申出に驚き、その対応に苦慮している。
■無期労働契約への転換
労働契約法18条1項は、有期雇用契約が5年を超えて反復更新された場合、有期雇用労働者の申込みにより、期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)に転換されると規定している。すなわち、同条項では、労働者が「…期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」と規定されているのである。これはフルタイム勤務の者だけではなくパートタイマーやアルバイトなどの短時間勤務の者も対象となる。
したがって、冒頭事案でも当該従業員が通算5年を超えて有期雇用契約を反復更新してきたのであれば、A院長はこの申出を拒むことはできない。仮にこれを拒んで従業員との間で紛争となった場合、労基署に相談が持ち込まれたり、それが原因で出勤ができなくなったとして賃金相当損害金を請求されたりするおそれがある。
■申込みは平成30年4月から本格的に
労働契約改正により無期雇用転換ルールが施行されたのは平成25年4月のことであるが、最近になり無期雇用契約の転換の問題が改めて注目されている。というのも、当該ルールの通算契約期間については平成25年4月1日以降に開始した有期雇用契約から算定するので、平成30年4月から本格的に無期転換の申込みが行われることが予想されるからである。
そのため、厚生労働省においても「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」(http://muki.mhlw.go.jp/)を開設し、無期転換の概要・導入のポイント・導入企業事例・導入支援策・Q&Aなどを公表し、無期転換に向けたハンドブックなど各種の情報提供を行っている。ただし、同サイトは一定数の従業員を抱える企業等を念頭に置いており、従業員数が少ない小規模事業所にはそのままでは当て嵌まらないものもある。
■申込みは平成30年4月から本格的に
労働契約改正により無期雇用転換ルールが施行されたのは平成25年4月のことであるが、最近になり無期雇用契約の転換の問題が改めて注目されている。というのも、当該ルールの通算契約期間については平成25年4月1日以降に開始した有期雇用契約から算定するので、平成30年4月から本格的に無期転換の申込みが行われることが予想されるからである。
そのため、厚生労働省においても「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」(http://muki.mhlw.go.jp/)を開設し、無期転換の概要・導入のポイント・導入企業事例・導入支援策・Q&Aなどを公表し、無期転換に向けたハンドブックなど各種の情報提供を行っている。ただし、同サイトは一定数の従業員を抱える企業等を念頭に置いており、従業員数が少ない小規模事業所にはそのままでは当て嵌まらないものもある。
■雇用期間以外の労働条件は同一である
ここで注意を要するのは、無期転換の申込があったからといって正社員になるわけではないということである。すなわち、給与や待遇等の雇用条件については直前の有期雇用契約と同一の労働条件であれば足り、例えば、パートタイムやアルバイトで勤務をしていた従業員についても従前と同様の雇用条件にて取り扱えばよいのである。勤務時間を増加させる必要もなければ時間給を月給にする必要もない。
そのため、従前の勤務体制に与える影響を必ずしも大きいものではなく必要以上に危機感を持つことはない。むしろ、無期転換の申込みを回避しようとして雇止めなどを行えば、それが重大な法的紛争を招くおそれがあるので慎重な対応が求められる。
■解雇のハードルが高くなる
以上のようにして無期雇用への転換があった場合、雇用主からの雇用契約の解消は非常に困難となる。すなわち、労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しており、解雇が認められるハードルは非常に高いのである。
もっとも、有期雇用であっても反復更新されている場合、労働契約法第20条により無期雇用に準じて合理的な理由を求められることがある。そのため、有期雇用契約であるからといって雇用契約の解消が容易とは限らないので、前記のとおり、無期転換の申込みを回避するために更新を拒絶することには慎重にならなければならない。
■労務紛争の処方箋
冒頭事案のA院長においては、当該従業員からの無期雇用転換申込みについて受け入れる以外に選択肢はない(勿論、当該申込みを受けて従業員との間で契約条件を再検討し、双方合意の上でこれを変更することは許容されている)。これを回避するために事前に雇止めを行うことは重大な紛争を生じさせるおそれがあり、また、長期雇用は歯科医院にとっても有益であることは間違いない。
そのため、むしろ今後は無期転換ルールの適用があることを前提として、歯科診療所においても中長期的な人事労務管理を行うことが重要であり、長期的な視点に立って従業員育成を図ること(場合によれば適性のない従業員との雇用契約を反復更新する前に解消すること)で従業員の意欲の向上と安定的な医院運営を期待できるのである。